社会の窓
今年の母の日には、北原白秋が「まざあ・ぐうす」のあとがきに寄せた言葉を。
お母さんがちょうのマザア・グウスはきれいな青い空の上に住んでいて、大きな美しいがちょうの背中にのってその空を翔(か)けったり、月の世界の人たちのつい近くをひょうひょうと雪のようにあかるくとんでいるのだそうです。マザア・グウスのおばあさんがそのがちょうの白い羽根をむしると、その羽根がやはり雪のようにひらひらと、地の上に舞(も)うてきて、おちる、すぐにその一つ一つが白い紙になって、その紙には子供たちのなによりよろこぶ子供のお唄が書いてあるので、イギリスの子供たちのお母さんがたはこれを子供たちにいつも読んできかしてくだすったのだそうです。
(中略)
(この本を訳したのは)日本ではこのわたしのが初めてです。日本の子供たちのために、わたしはこのお母さんがちょうを日本の空の上にきてもらいました。そうして空からひらひらとその唄のついたがちょうの羽根をちらしてもらったのでした。その羽根にかいてある字はイギリスの字ですから、わたしは桃色のお月さまの光でひとつひとつすかしてみて、それを日本のことばになおして、あなたがた、日本のかわいい子供たちにうたってあげるのです。そしてみんなうたえるようにうたいながら書きなおしたのですからみんなうたえます。うたってごらんなさい。ずいぶんおもしろいから。
海をこえた向こうの空の下で暮らしてもう何年にもなりますが、ここでの毎日が楽しいのはきっと母の羽根が空からいまでもひらひらと降ってきていているからかもしれません。
日本で降っていたものと同じように、母の言葉や行動で書かれている言葉を、翻訳しながら。 ひとつひとつ、そうやって翻訳してきた結果、わたしはきっとここに居るのでしょうね。 だから、毎日、楽しいです。
お母さん、ありがとう。