社会の窓 

講義を終えて家に帰ると、仲良しのおともだちマイケルからの電話。


「今日ぜんぜん勉強しなかったの! これからカフェに行って勉強するから、一緒しない?」


いつものDunn Brothersで待ち合わせして、しばらく二人で黙々と本を読む。彼と私の博論は(アドバイザーも同じことだし)研究の対象はそれぞれだけど、フランスの思想家ミシェル・フーコーの後期の哲学を中心としているので理論的にはものすごく近い。一緒に勉強すると言説の分析しやいきづまってることなんかの話がしやすくって、お互いにいい啓発媒体です。(それにしても前期フーコーの解説書はたくさんあるのに、後期のはあまりいい本がないのはどうしたものか)。


しばらく勉強した後、私たちの住む地域アップタウンUptownからチャリンコに乗って15分くらいの近所にあるミッドタウンMidtownというところへ移動。この地域はメキシコからの移民がたくさん住む地域で、「今日は僕のおごり♪」といってタコスのお店に連れて行ってもらう。


行ったお店はTaqueria La Hacienda。ミネアポリスの事業の一環で移民たちに安い金利で融資をしてビジネスを促進するプロジェクトで起業して「億万長者」になったというメキシコ人の経営するお店。すごく広い店内では、右を向いても左を向いてもメキシコ人。 メキシコ人だらけ。(あ〜またメキシコ行きたいなー)ベラベラしゃべりまくりながら私たちが長居していた間に、お客さんの列がたえるどころか長くなる一方。本物のメキシコのタコスが食べられるのでうきうきしながら(マイケルが)オーダー。 今日はチキンとポークのタコスを3つづつたのんで二人で半分こ。お米の粉でつくったシナモン香りのするジュース「オルチャタ』をすすりながら、以前コスタリカに住んだりしたこともあってスペイン語ペラペ〜ラのマイケルにちょっとジェラシーを燃やす。  


再びチャリンコに乗って家に帰る途中に「一杯飲みに行く?」なんてことに。 今日はマイケルのパートナー、オーファーは夜勤らしいので(小児科のお医者さんだからね)、「いっちゃう?普段オーファーが一緒だと行けないようなところ、行っちゃう?」と急速に話が展開。 「オーファーが一緒だといけないところ」っていうのは、ダイブ(dive) なところ、日本語だと「入るのにちょっと勇気のいる場所」。 要はブルジョアチックの正反対で、労働階級的な、低所得者的な、そんなところ。 (オーファーは小奇麗なところ好き)


そこから話がふくらみにふくらんで、最終的に行ったのはダウンタウンにあるゲイ・クラブ Gay 90s。 もちろんストレートの男女も来るけど、基本的にはゲイ・レズビアンたちの集まるクラブ。 ちなみに、3ブロック先にはもっとお上品なゲイ・クラブもあるけど初心貫徹でDiveなGay 90sへ。


クラブに行くなんて予定じゃなかったので、マイケルもあたしもすっごい格好で行く。マイケルは短パン、Tシャツ、スニーカー。わたしもTシャツにカプリ・パンツに、無印のゴムぞうり。(日本だったら「ぜったいヤバイやろ」って言われそ。アメリカでも日本でも、小奇麗でかっこいいクラブってファッションでいろんなステータスを競うような雰囲気があってわたしはすごく苦手。「かっこよく」ふるまうのに疲れて楽しみ半減する気がするのね)


この巨大なクラブでは上の階ではドラッグ・クイーンのステージショーがあって、階下では迷路みたいに区分された3つか4つのフロアがあって、それぞれ違う音楽をかけているので、個人の好みで踊る場所をえらべる。 さっそくジントニックを飲んで、ミントシュナップというあまいミントのリキュールをショットであおって(←あたしら大学生みたいなことやってます(汗))、フロアを転々としながら、踊ってゴーゴー♪ 


いい具合にほろ酔いで自由に踊りまくって、そりゃぁ楽しかった。
このクラブは、一般的な(ゲイでもストレートのお店でも)小奇麗なところと違って、黒人も、白人も、ヒスパニックも、オヤジもおばちゃんも、美形のひともいれば、不細工な人も、スタイルのいい人もいれば、でぶっちょの人も、ファッションセンスある人もない人も、みんな楽しむことができるからすごく好き。 クラブやバー(特に前者)などの華やかな場所では美しい人だけがチヤホヤされたり、ステージに上がって自己陶酔的に踊ったり、セックスアピールふりまいたり、脚光をあびる「特権」があたえられる。 デブで不細工でセンスわるくて・・・って人は、まちがってもそんなことはできないどころか、出来るだけ目立たないようにしないと直接・間接的な嘲笑・冷笑の対象にされてしまいます(この監視するまなざしは、日本だっておなじ)。


そんな監視するまなざしのない空間だからGay 90sはすごく好きだなぁと改めて思った。でぶっちょで決して「かっこいい」タイプではない人も、不細工で貧相なボディーの女の子も、思い思いにセックスアピールしたり、かっこつけたり、ナンパしたりしてる。そういうのって、すごく開放的。 これからもいろんな人と出会ったりお付き合いを続けていくだろうけど、そんな管理のまなざしを解除するような空間をつくることが出来るような関係をたくさんの人とつくれたらいいな。