社会の窓

毎晩お酒ばっかりのんでいた学会から、やっと帰ってきました。いろいろあったので、小分けにして、ぼつぼつ報告していきます。


まずは、面接から。
学会会場の中のどこに行けばいいのか、事前にメールをもらっていたので、それをたよりに某教授を探しに行きました。もちろん面識がないので、メールには「僕ともうひとりの先生がたぶん一緒に射ることになると思います。僕は茶色の髪の毛で緑の眼でで、彼は・・・」と書いてあったので、なんだかブラインド・デートみたいです。 胸に赤いバラを挿していこうかしら  ・・なんていいかげんなことを考えつつ、約束の場へ。 3人の先生がおられて、ちょっとビビる。


3人の先生に囲まれつつ、面接では:

  1. 教える授業(ティーチング)とリサーチのバランスをどう考えているか
  2. これから先のリサーチの予定と計画はどんなものですか?
  3. なぜリサーチ機関ではなく、わが校のような教えることに重点をおく学校を選んだのですか? どうして、ほかでもない、この学校なんですか?
  4. Tenure(テニュアー)について、どう考えていますか? (下記説明)
  5. あなたにとってのテニュアーとは何ですか?


ほかにもいろいろあったけど、全体的にはこんな質問をされました。テニュアーというのはアメリカにある大学教員の雇用形態で、たしか他の国にこの制度があるところは、少ないです。 日本では、専任・非常勤の区別があり、専任講師になったら、とりあえず(犯罪を犯さない限り)首になることはありません。要するに、終身雇用です。 


アメリカにも専任・非常勤の区別はありますが、テニュアーは専任講師になる場合、終身雇用を自動的にもらえません。 専任として教職についてから通常5〜6年の猶予が与えられ、学校それぞれの課題(毎年トップクラスの学会雑誌に論文を2本発表するとか)をクリアして、長いこと審査された後に、初めて終身雇用の保証をもらうことができます。 もちろん、もらえなかった先生はその学校をやめて、また新しいところで専任の職を探さなければいけません。


面接で質問された内容は、ほとんど想定内の範囲だったので、それなりにうまく対応できた(と少なくとも私は思っている)けど、最後のテニュアーについてはびっくりでした。 今、アメリカでは大学教授のためのこのテニュアー制度をなくすべきか、という議論が行われています。終身雇用をもらった先生たちは高いお金(とくに州立だと税金)をもらうくせに研究しなくなるから、それを防ぐために、というのが一番よく叫ばれる理由です。 面接では、その議論についての私の立ち位置はどこか、と聞かれたのです。


これは相手の立ち位置なんてわからないし、探りながら話をすることはできないので、正直にわたしの意見を言いました。 


テニュアー制度は必要です。たしかに研究しなくなる先生も(残念ながらたくさん)いるし、そういう人に払うお金は無駄だと思います。が、テニュアー制は、学問の自由を確保するために必要な制度です。 いくら自分の好きなことを研究してもいいといわれても、大学は非営利団体ではありません。だから、大学という制度のなかでは、テニュアーをもらうためには、大学の中で生き残っていくには、生徒からの履修率を保っていくためには・・・と、学問はつねに「自由に研究できる」だけもものではないのです。 言い方をかえると、終身雇用をもらうためには、学術内で「いい」とみなされた学術雑誌に発表しなければいけないし、そのためには学科以内で「大切」とおもわれた内容を書かなきゃいけない。そうすることで研究に対して自分やフィールドに対してウソをついているわけれではないけれど、本当にラディカルなことや革新的な仕事をしているひとたちはやはりいろんな「伝統」からたたかれるから、発表できない。だから、譲歩したりしなきゃいけない自分の仕事をわかってもらえるように『翻訳』しなきゃいけない。 


研究の場を与える学校は、学問の自由を保障しなければいい研究を育てることはできないし、その中で「無駄」な先生たちが生まれることは、想定範囲に入れているべき。無駄のうまれないシステムなんてありえない。 学問の自由を保障しなければ、大学は研究・教育の場としては死んでしまうし、資本主義やネオ・リベラリズムみたいなものに完全に絡みとられてしまう。そこで先生は「自己責任」のために生徒からの要求に常に迎合するような授業をするようになるし、教室はエンターテイメントの場となる。 


てなことを、きちんと話しました。反応を聞いている限りでは、私と面接相手の先生方の考え方は同じようだったので、結果オーライです。 (ここで意見が違って、それで仕事がもらえなくても、きっとそれでも結果オーライだけれど。根本的に考え方が違うと、仕事はやりにくいし)。 


なんだかんだで、1時間も面接してました。 これが「いい」面接だったのか、成功したのか失敗したのか分からないけれど、とりあえず終わってほっとしました。 この段階を突破して次の面接に呼ばれるかどうかは、12月中旬から下旬に分かると思います。 そのときはまた、お知らせしますね。