社会の窓

大学院を卒業してお仕事を始めると、研究は孤独な作業になります(共著や共同研究の多い理系や社会科学はちがうかも)。  大学院の時は似通った分野の知識を持っている人がいつでもどこにでもいて、色んなアイディアを試してみたり、ドラフトを読んでもらえるのだけれど、お仕事を始めると、そういう同僚を見つけるのは、簡単なことではありません。 『書く』という作業は孤独な上に、先の見えない、常に不安な作業。  


ポートランドでは、書きかけの論文を持ち寄って、一緒に『書く』作業に没頭するための、ライティング・リトリートへと参加してきました。


分野も文化人類学から中世ドイツ文学、歴史、心理学、音楽と、いろんな分野から15人が集まりました。 Biribiのようなジュニアの職員もいれば、何冊も本を出版しているシニアの先生まで。 5日間、大学のキャンパスで缶詰です。


朝8時にキャンパスにある広い会議室に集まり、朝食を食べて、簡単なゴール設定をした後、9時から12時まで、それぞれ持参のノートパソコンへ向かって、ひたすらキーボードをパチパチ。 


12時にお昼ご飯がセッティングされて、1時ごろまでランチしながらおしゃべり。  

1時から4時まで、またひたすらキーボードをパチパチ。もちろん、参考文献にあたったり、ドラフトを読み返したり、作業はその日のゴール設定によって人それぞれ。


4時から5時は、ディスカッション。 論文の書き方、トラブルシュート、論文出版の経験論から、アドバイス等々。  


5時に解散した後は、晩御飯たべて、自由時間。 ダウンタウンのホテルへ帰る人もいれば、キャンパスの学生寮に泊まっている人たちもいるので、様々。 スイミングに行ったり、散歩したり。 1日プロジェクトに向かった後は、さすがに勉強してる人はいないです(笑)  


キャンパスに缶詰になって作業した5日間、とっても楽しかったです。 


それぞれライティング・パートナーがいて、その日のゴール設定をしたり、j会話の中でアイディアを試してみたり、ドラフトを読んでフィードバックしたりするのですが、Biribiはいいパートナーにあたりました。 同じ分野の人で、キャリアはBiribiより数年先輩。 いろんなアドバイスをもらったし、Biribiも彼が書こうとしている本のプロポーザルのためにアイディアや批評することで役に立てたし。  


どの人も、ちっとも偉そうぶってなくって、みんな独自のライテリングの問題を抱えてたり、知恵があったり。 一人の先生なんか、めちゃめちゃ一流の大学で教えていて、彼女の分野ではかなり有名らしいんだけれど、とっても気さくで、アドバイスも悩みも、同じ目線で話してくれるのです。  同じように、どの人もフェアで、気の利いた冗談のたくさん出る、とっても気持ちよく接することのできる、いいグループです。 いつでも、どこでも、誰かがいて、冴えたコメントや批評を求めることができて、同じ『書く』という作業との格闘を共同の空間ですることで、すごく不思議な連帯感が生まれてきます。 大学院に戻ったみたい!!!


5日間の間、Biribiのドラフトは2歩前進して、3歩後退して、横に1.5ステップ、と思い通りに、つまり直線的には進展しなかったけれど、今まで書こうとしていたことが、たぶん一つの論文には収まらないことだと、やっと気がつきました。 めちゃくちゃラフなドラフトを書いたのだけれど、それだけで6000ワード。 追求したいことの半分も書いてないのに、紙面(論文雑誌では、大体11000ワードあたりがリミット)の半分以上!(泣)


いろんな人からアドバイスもらって、ディスカッションを通して『書く』作業への前提を修正するようなアイディアを拾ったり、得るものがとても多かったです。  


そして、何よりも新しいお友達ができたこと。
私の指導教授とお友達の人が2人もいたし(嬉)、あー あそこの大学院だったら、○○さん知ってる?とか、えぇ!あそこの大学の▲▲先生って、いまそんなことやってんの?とか、あの有名な☆☆氏って、赤ペンもって新聞読むんだ(爆)、なんておしゃべりしながら、お互いが、どんどん繋がっていったこと。


その中でも、Biribiのライティング・パートナーに加えて、このRetreatの開催者の人も、いい仕事仲間になれそう。  たぶん分析方法はちがうと思うけど、研究対象がかなりBiribiと近くって、これから先もドラフトを交換したり、学会で共同発表しようね、と約束して別れることが出来たことは、とても嬉しかったです。 


ほんの短い間だったけれど、自分よりちょっと先輩で、いい論文を書く人たちからそんな風に言ってもらえて、とても嬉しいです。 Retreaの結果としては、Biribiの論文は一度仕切りなおしてからの前進となったけれど、『書き終わったよ!ジャーナルに掲載されたよ!』って新しいお友達に早く言うことが出来るように、そして読んでもらえることが出来るようにがんばろう! 孤独な作業の研究の分野で、『この人に読んでもらいたい!』と思う具体的な読者を得ることが出来たのが、一番ありがたいこと。  こうやって、すこしづつ、新しい未来が開けるのですね。  


わたしはけっこう引っ込み思案で、新しい場へと突き進んでいくのに躊躇したりするのだけれど、新しく開けていく未来を具体的な現実へとできるように、これからもせっせと、キーボードをパチパチやっていこう!と思いながら、ポートランドを後にしてきました。